新時代の幕開けと果ての無い絶望
1991年の秋、このアルバムが出た時、僕は高校生だった。
小さな町のレコードショップで店内で流れていた曲に心を奪われたんだよね。すぐに店のマスターに「この曲は?」って。「Nirvanaっていうバンドで、最近人気が出てきてるらしいよ」
まだそんなタイミングだった
当時はまだグランジという言葉すら一般には浸透していなくて、僕らの田舎では洋楽と言ったらガンズアンドローゼスだった時代。
91年の秋、アメリカでは派手なメイクのLAメタルや、やたらとテクニカルなシュレッド・ギターばかりが流れていた時代。それが一瞬にして過去の遺物になってしまったんだから、痛快というか、ちょっとしたテロリズムを見ているような感じだったよねぶっちゃけ。
あの「Smells Like Teen Spirit」のイントロ、愛器のジャガーから放たれる荒々しい4つのパワーコードが鳴らされた瞬間、世界中のギターキッズが速弾きの練習をやめたなんて冗談めかして語られるけど、当時の空気感を思い返せばあながち大袈裟な話でもないんだよね。
実際僕もギターをやってて「あー速弾き無理だー」って諦めてた頃だものw
このアルバムを「グランジという衝動の爆発」みたいに語る向きは昔から多いけれど、実際に鳴っている音を冷静に聴き解いていくと、恐ろしいほど緻密に計算されたポップ・レコードだという事実に気づかされる。
プロデューサーのブッチ・ヴィグと、ミックスを手掛けたアンディ・ウォレスの功績は計り知れない。
カート・コバーン本人は後になって「モトリー・クルーみたいな音になっちまった」とこのツルッとしたミックスを嫌悪していたらしいけど、アンディ・ウォレスが施したあの極端にセパレーションの良い、ラジオ鳴り抜群のサウンド・プロダクションがなければ、ここまで世界中を飲み込むことはなかったはずだ。
(そういえばブッチが後年のインタビューで「カートがあのアルバムを気に入ってない。と聞かされて落ち込んだ」みたいなのを読んだ記憶があるわ)
話し戻すと、デイヴ・グロールの叩き出すドラムの音なんか、まさにその象徴と言っていい。ただ力任せに叩き潰しているように聴こえて、実はキックとスネアの抜け方が信じられないくらいクリアで巨大なんだよね。
あのアタック感の強さが、バンドのアンサンブル全体を底上げしている。「In Bloom」のイントロのおかず一つとっても、ドラムだけで曲の強力なフックとして成立してしまう異常な存在感がある。そこに絡みつくクリス・ノヴォセリックのベースは、ただルート音をなぞることに終始せず、絶妙にメロディアスで泥臭いラインを這いずり回る。ギターが一本しかいないスリーピースという編成の弱点を、彼の重心の低いベースラインが完璧に補い、曲にうねりと推進力を与えていると思う。
そして何より、カートのソングライティング能力の底恐ろしさを見せつけられる。パンクやハードコアの攻撃性、それにノイズロックの不協和音を借りてはいるものの、骨組み自体は完全にビートルズ直系の極上ポップスだ。
「Lithium」や「Come as You Are」なんかを聴けばわかるけれど、静かなヴァースから爆発的なコーラスへなだれ込む、いわゆる「静と動」のダイナミクスがこれでもかと詰め込まれている。
エフェクターの踏み替え一つで作られるその落差は、当時のシーンにおいて劇的なカタルシスを生んでいた。
ヴァース部分で多用される、エレクトロ・ハーモニックスのスモール・クローンによる冷たく水面が揺れるようなコーラス・サウンドから、サビで一気にボスのDS-1がノイジーに歪み散らすあの瞬間。あの極端な落差と爆発力こそが、当時の行き詰まったキッズたちの鬱屈と怒りを完璧に代弁していたんだろうね。
そういえば最近DS-1買ったんだよねw
音作りがあまりにも完璧すぎるが故に、次作の『In Utero』のような剥き出しのヒリヒリした痛覚や、スティーヴ・アルビニが意図的に録ったあの生々しいノイズの塊みたいな手触りとは違う、一種の「メインストリーム向けの大量生産品」っぽさを感じてしまう瞬間もある。
だけど、だからといってこのアルバムの価値が1ミリでも下がるわけじゃない。むしろ、アンダーグラウンドの薄汚れたノイズと、誰もが口ずさめるポップ・ミュージックの橋渡しを、これほどまでに高い次元で、しかも一瞬の魔法のようなバランスで成し遂げた作品は他にないと思う。
カートの喉を引き裂くような痛切なシャウトが、キャッチーなメロディに乗って全世界中に響き渡りやがて大衆化していく。
その大いなる矛盾と皮肉そのものが、『Nevermind』という巨大なモニュメントの正体であり結末だったのかもしれない。
時代の転換点を生きた世代として、あの音楽業界の空気が文字通り一変する瞬間にリアルタイムで立ち会えたことは、やっぱり特別な体験だったと思い知らされる。
小さな町のレコードショップで店内で流れていた曲に心を奪われたんだよね。すぐに店のマスターに「この曲は?」って。「Nirvanaっていうバンドで、最近人気が出てきてるらしいよ」
まだそんなタイミングだった
当時はまだグランジという言葉すら一般には浸透していなくて、僕らの田舎では洋楽と言ったらガンズアンドローゼスだった時代。
91年の秋、アメリカでは派手なメイクのLAメタルや、やたらとテクニカルなシュレッド・ギターばかりが流れていた時代。それが一瞬にして過去の遺物になってしまったんだから、痛快というか、ちょっとしたテロリズムを見ているような感じだったよねぶっちゃけ。
あの「Smells Like Teen Spirit」のイントロ、愛器のジャガーから放たれる荒々しい4つのパワーコードが鳴らされた瞬間、世界中のギターキッズが速弾きの練習をやめたなんて冗談めかして語られるけど、当時の空気感を思い返せばあながち大袈裟な話でもないんだよね。
実際僕もギターをやってて「あー速弾き無理だー」って諦めてた頃だものw
このアルバムを「グランジという衝動の爆発」みたいに語る向きは昔から多いけれど、実際に鳴っている音を冷静に聴き解いていくと、恐ろしいほど緻密に計算されたポップ・レコードだという事実に気づかされる。
プロデューサーのブッチ・ヴィグと、ミックスを手掛けたアンディ・ウォレスの功績は計り知れない。
カート・コバーン本人は後になって「モトリー・クルーみたいな音になっちまった」とこのツルッとしたミックスを嫌悪していたらしいけど、アンディ・ウォレスが施したあの極端にセパレーションの良い、ラジオ鳴り抜群のサウンド・プロダクションがなければ、ここまで世界中を飲み込むことはなかったはずだ。
(そういえばブッチが後年のインタビューで「カートがあのアルバムを気に入ってない。と聞かされて落ち込んだ」みたいなのを読んだ記憶があるわ)
話し戻すと、デイヴ・グロールの叩き出すドラムの音なんか、まさにその象徴と言っていい。ただ力任せに叩き潰しているように聴こえて、実はキックとスネアの抜け方が信じられないくらいクリアで巨大なんだよね。
あのアタック感の強さが、バンドのアンサンブル全体を底上げしている。「In Bloom」のイントロのおかず一つとっても、ドラムだけで曲の強力なフックとして成立してしまう異常な存在感がある。そこに絡みつくクリス・ノヴォセリックのベースは、ただルート音をなぞることに終始せず、絶妙にメロディアスで泥臭いラインを這いずり回る。ギターが一本しかいないスリーピースという編成の弱点を、彼の重心の低いベースラインが完璧に補い、曲にうねりと推進力を与えていると思う。
そして何より、カートのソングライティング能力の底恐ろしさを見せつけられる。パンクやハードコアの攻撃性、それにノイズロックの不協和音を借りてはいるものの、骨組み自体は完全にビートルズ直系の極上ポップスだ。
「Lithium」や「Come as You Are」なんかを聴けばわかるけれど、静かなヴァースから爆発的なコーラスへなだれ込む、いわゆる「静と動」のダイナミクスがこれでもかと詰め込まれている。
エフェクターの踏み替え一つで作られるその落差は、当時のシーンにおいて劇的なカタルシスを生んでいた。
ヴァース部分で多用される、エレクトロ・ハーモニックスのスモール・クローンによる冷たく水面が揺れるようなコーラス・サウンドから、サビで一気にボスのDS-1がノイジーに歪み散らすあの瞬間。あの極端な落差と爆発力こそが、当時の行き詰まったキッズたちの鬱屈と怒りを完璧に代弁していたんだろうね。
そういえば最近DS-1買ったんだよねw
音作りがあまりにも完璧すぎるが故に、次作の『In Utero』のような剥き出しのヒリヒリした痛覚や、スティーヴ・アルビニが意図的に録ったあの生々しいノイズの塊みたいな手触りとは違う、一種の「メインストリーム向けの大量生産品」っぽさを感じてしまう瞬間もある。
だけど、だからといってこのアルバムの価値が1ミリでも下がるわけじゃない。むしろ、アンダーグラウンドの薄汚れたノイズと、誰もが口ずさめるポップ・ミュージックの橋渡しを、これほどまでに高い次元で、しかも一瞬の魔法のようなバランスで成し遂げた作品は他にないと思う。
カートの喉を引き裂くような痛切なシャウトが、キャッチーなメロディに乗って全世界中に響き渡りやがて大衆化していく。
その大いなる矛盾と皮肉そのものが、『Nevermind』という巨大なモニュメントの正体であり結末だったのかもしれない。
時代の転換点を生きた世代として、あの音楽業界の空気が文字通り一変する瞬間にリアルタイムで立ち会えたことは、やっぱり特別な体験だったと思い知らされる。
この作品の推しポイント
- 静と動の落差が暴力的なほど正確に表現されている
- カートの声が加工なしでも情報量過多なほど感情を運んでくる
- 一曲も捨て曲がない完成度
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