過去の因縁をオーケストレーションでねじ伏せる極悪の咆哮

★★★★★
by うぃる (@will) | 公開: 2026.03.18 (更新: 2026.03.19)
90年代初頭、フロリダ産デスメタルのカセットテープを擦り切れるまで聴き漁っていた頃、まさかエクストリーム・ミュージックがここまで映画的なスケールを持つようになるとは想像もしていなかった。当時は生々しさと残虐性が正義だったわけだが、今やデスコアというジャンルはシンフォニックな装飾をまとうのが一つのスタンダードになっている。そんな現代の極端なサウンド・トレンドにおいて、良くも悪くも強烈な存在感を放っているのがImmortal Disfigurementのデビューフルアルバム『KING』だ。

ボーカルのCJ McCreeryについて触れずにはおけないだろう。Signs of the SwarmやLorna Shoreでの姿を知っている人も多いはずだ。彼がLorna Shoreを抜けた後、バンドがWill Ramosを迎え入れ一気にメインストリームへと駆け上がっていったのは記憶に新しい。かつての仲間たちをどんな思いで見ていたのか。そんな彼が2021年、元A Wake in ProvidenceのJosh FreemanやWinds of PlagueのShane Sladeらと組んでこのバンドを立ち上げた背景には、並々ならぬ執念があったはずだ。このアルバム全体には「自分こそが本物だ」と証明せんとする、怨念めいたエネルギーが渦巻いているんだよね。

ただ、この『KING』というアルバム、リリースまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。当初の予定から延期され、世に出たのは2024年の6月。オーケストレーションやギターを担当していたHarry Tadayonへのギャラ未払い騒動が原因だという。結局彼はバンドを去ることになったわけだが、昔からアンダーグラウンドのメタルシーンでは金銭トラブルでの脱退劇なんて日常茶飯事だった。自分も90年代に、レコーディング費用の揉め事で解散したバンドをいくつも見てきたから、こういうゴタゴタを聞くとなんとも言えない懐かしさと呆れを感じてしまう。

いざ音源を聴いてみると、そういった泥臭いトラブルを感じさせないほど、音像は徹底的に作り込まれている。地獄の底から這い上がってくるようなCJのグロウルと、荘厳なクワイアやストリングスが交錯する瞬間は素直に圧倒される。特にタイトル・トラックの「King」や、初期にMisstiqのオーケストレーションをフィーチャーして発表された「Dragged Through the Inferno」あたりを聴くと、彼らが目指しているシンフォニック・デスコアの到達点がよくわかる。重低音の生々しい響きと、クリアに分離されたシンセサイザーのレイヤー。今のデジタルレコーディング環境だからこそ成立する、狂気的だがひどく整然とした音作りだ。

Winds of PlagueのShane Sladeが弾くベースラインは、極端にドロップチューニングされたJosh Freemanのギターリフと同化していて、もはや一つの巨大な重低音の壁として機能している。ドラムのブラストビートや変拍子のキメは機械的なまでに正確で、そこに圧倒的な情報量を持つオーケストレーションが覆い被さってくる。個人的には、時折このシンフォニックな装飾が過剰すぎて、バンド本来の生々しいグルーヴやリフの殺傷能力をスポイルしているように感じる瞬間もある。オーケストラが前に出過ぎて、せっかくの重低音が少し後ろに引っ込んでいるように聴こえる帯域があるんだよね。ただ、これはもうこのジャンルの宿命みたいなもので、全パートを限界突破のフルテンで鳴らそうとする最近のトレンドを象徴しているとも言える。

個人的にはいわゆるデス声系ボーカリストの中では一番好きなんだが、CJのパフォーマンスは相変わらず凄まじい。深淵を覗き込むような圧倒的なロー・グロウルのように声帯の限界に挑むようなアプローチは健在だ。重み、深み、まさに最高峰の最咆哮(笑

「Showcase ov Phlegm」や「Force-Fed」などでの畳み掛けるようなボーカルは、同系統のバンドの中でも群を抜く説得力を持っている。彼のアングリーな感情が、冷たいオーケストラのアレンジとぶつかり合うことで、このアルバム特有の奇妙なカタルシスを生み出しているのは間違いない。

全体を通して聴くと、アルバム一枚を同じ異常なテンションで駆け抜けるため、人によっては同じ曲???なんてこともあるかも知れないけど...(💦
良くも悪くも「盛り盛りのデスコア」であり、引き算の美学みたいなものは皆無に等しい。手放しで歴史的名盤とは言わないけれど、CJという男が自らの過去を精算し、シーンに再び爪痕を残すための宣戦布告としては、これ以上ないほど強烈な一枚になっている。洗練されているのか野蛮なのか、そのギリギリのラインを綱渡りしているような危うさが、このアルバムの最大の面白さなんだと思う。

Lorna Shoreと比較するつもりはないといえばウソになる。Will Ramosと比べるな。といっても多分無理。
私的には声の深みではCJが一番なんだよなぁ
この作品の推しポイント
  • 怨念と執念が入り混じる、CJ McCreeryの極限まで歪んだボーカルワーク
  • 暴力的なブラストビートと荘厳なオーケストレーションが正面衝突する過剰な音像
  • クレジットの裏にある泥臭い金銭トラブルすらも作品の推進力に変えた生々しい熱量
Related Videos
Author
REVIEWED BY

うぃる

「Amazonのアソシエイトとして、うぃる は適格販売により収入を得ています。」